世界有数のコーヒー生産大国の1つとして挙げられるインドネシア。
マンデリンコーヒーやコピ・ルアクなど多種類の個性的な銘柄が栽培されている一大産地です。
そんなインドネシアで一度姿を消した過去がある銘柄をご存知でしょうか?
その名は「幻のコーヒー」とも言われるトラジャコーヒー。日本ではキーコーヒーのトアルコ・トラジャコーヒーがとても有名ですね。
それもそのはず、トラジャコーヒーはキーコーヒーと深く関りがあるのです。
今回はそんなミステリアスな銘柄の魅力や特徴、そしてインドネシアにおけるコーヒーの歴史とともにトラジャコーヒーの復活劇を見てみましょう。
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フリーライター
かつてウィーンで本場のカフェ文化に触れ、その後北部タイで薫り高いコーヒーを味わって以来、コーヒーに心魅かれる。その想いが募り、美味しいコーヒーを追求して2年間の東南アジア・東アジア放浪の旅へ。
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トラジャコーヒーとは
インドネシア・スラウェシ島のトラジャ地方で栽培
トラジャコーヒーは、インドネシアのスラウェシ島で栽培されるコーヒーです。
インドネシアは1万3,466もの島々を有する世界随一の島嶼国で、スラウェシ島は国内で4番目、世界でも11番目に大きな島。人口は1,946 万人でインドネシア全体のわずか7.3%になります。
インドネシア産コーヒーの全生産量は2020年度で773,409トン。世界国別ランキングでは第4位を誇ります。
国内全体の生産ではロブスタ種が主流ですが、世界に流通しているのはアラビカ種が大半です。
インドネシア産コーヒーは高品質で個性的な銘柄が多く、代表的なのはスマトラ島のマンデリンコーヒーとスラウェシ島のトラジャコーヒーです。
トラジャアラビカという最高品種のコーヒー豆
インドネシア国内で生産されるコーヒー豆の9割ほどがロブスタ種と言われる中、スラウェシ島はアラビカ種の栽培が主流です。
アラビカ種コーヒーはスラウェシ島の中部に位置するタナ・トラジャ地方で栽培されており、その品質は国内トップレベル。
中でも特定の環境条件下のみで栽培されたものをトラジャアラビカと呼び、かつてオランダ王室で最高峰とも称された格別な銘柄です。
現代においてもスペシャルティコーヒーとして人気が高いものの生産量が少ないため、希少性の高い銘柄で高級品として取り扱われています。
[関連]アラビカ種のコーヒー豆の特徴と品種について解説します。
完熟豆を手摘みしているため生産量は少なく希少
トラジャコーヒーの生産量が少ない理由のひとつとして、丁寧な栽培方法を採用していることが挙げられます。
生産工程において完熟豆のみを摘み取り、欠点豆や石などの混入物を一つひとつ取り除く一連の作業をすべて手作業で行っています。
機械による作業と異なり時間と労力はかかるものの、手間をかけながら上質なコーヒー豆のみを厳選しているのです。
この生産プロセスでは、生産量が少ないながらも品質にバラツキがなく、均一の取れたコーヒー豆を出荷することができます。
[関連]【専門家監修】コーヒーチェリーとは?真っ赤なコーヒーの実の構造や精製過程
トラジャコーヒーの特徴と味
スモーキーな香りとクリーミーな口当たり
インドネシア産コーヒーはそれぞれに個性的な特徴を持つ銘柄が揃っています。トラジャコーヒーもそのひとつ。
コーヒーを淹れた瞬間に立ち込める香りは格別で、芳醇なスモーキーの香りが漂い、贅沢な雰囲気に包まれます。
そしてほんのりとした優しい甘みと、クリーミーな口当たりが至福の空間を作り上げるようです。
優しい酸味と苦味で飲みやすい
トラジャコーヒーはボディ感たっぷりの力強いコクが際立ち、飲みごたえは抜群です。
しかしそれだけでなく、優しい酸味と苦味とのバランスが良いことから、飲みやすい味わいになっています。
力強さと優しさが調和し、上質で香り高くコク深い味わいを堪能できますよ。
▼トラジャコーヒーの味わい
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トラジャコーヒーの栽培環境
標高1,000mを超える山岳地帯で栽培
トラジャコーヒーは、スラウェシ島の標高1,000mを超える山岳地帯で栽培されています。
おもな産地は山深いタナ・トラジャ地方で標高およそ1,100m~1,800mほどのエリアに、傾斜地を利用したコーヒー農園が点在。
この地域は赤道に近く、高温多湿な熱帯性気候ですが、高地にあることから日中は日差しが強く、夜になると一気に気温が低下して昼夜の寒暖差が生じます。
十分な日射量と寒暖差、そして熱帯性気候ならではの年間降雨量が2,000mm~3,000mmというコーヒー栽培にとても理想的な環境を作り出しているのです。
大規模農園はなく小規模農園が手掛ける
インドネシアにおけるコーヒー生産の割合は全体の95%が小規模農園で、大規模農園はわずか5%と言われています。
タナ・トラジャ地方も例外ではなく、大規模農園はありません。
この地域に住む住民が小規模農園を営み、トラジャコーヒーの栽培を手掛けています。
彼らはコーヒー豆の栽培・収穫・脱穀・ハンドピック・袋詰めまで手作業で行います。
それぞれ独立した農園であるものの規模が小さいため、個々の農園ではなく地域のコレクターが所有する土地にコーヒー豆を持ち込んで、脱穀やハンドピックなどを行っているのです。
精製方法はウォッシュド製法やスマトラ式
収穫したコーヒーチェリーは、ある工程を経て生豆にします。
この作業工程を精製と言います。
トラジャコーヒーの精製方法は、ウォッシュド精製とスマトラ式が採用されています。
[関連]【専門家監修】コーヒーの精選とは?生豆を取り出す4種類の精選方法を解説
ウォッシュド精製はクリアで雑味のない味に仕上がる
ウォッシュド精製は水洗式とも言われ、クリアで雑味のない味です。
収穫したばかりのコーヒーチェリーは真っ赤に熟した果肉が表面を覆っており、果肉の中にある豆を取り出す作業を脱穀と言います。
脱穀すると、豆の周りにはヌルヌルとしたミューシレージと呼ばれる粘液質が付着しており、これを水洗いでしっかりと取り除きます。
その後、乾燥させて出荷できる状態の生豆となるのです。
この方法では大量の水が必要となるため、多くの農園では採用していませんが、バラツキの少ない均一のとれた豆を精製することが可能です。
[関連]【専門家監修】コーヒーのウォッシュド精製(水洗式)とは?特徴や味わい、精製手順について
スマトラ式はインドネシアを代表とする精製方法
多くの農園が採用しているのがインドネシアを代表するスマトラ式の精製方法。
スマトラ式は、トラジャコーヒーに限らずマンデリンコーヒーなどその他の銘柄でも広く採用されています。
主な理由は、インドネシアの高温多湿の環境に適しているから。
精製工程で他の精製方法と異なる点は、2度乾燥を行うことと豆の水分量。脱穀の時点で水分量は通常10~15%程度ですが、スマトラ式は30%~50%程度と多めです。
その後20%程度まで乾燥させますが、それでも一般的な生豆よりも水分を多く含んだ状態で出荷されます。
傷みやすい側面がありますが、この精製方法により、インドネシア独特の風味を持つコーヒーが出来上がるのです。
[関連]コーヒーのスマトラ式とは?特徴や味わい、精製手順について
トラジャコーヒーの等級
等級 | 欠点豆 |
G1 | 0~3 |
G2 | 4~12 |
G3 | 13~25 |
G4 | 26~45 |
G5 | 46~100 |
インドネシア産コーヒー豆のグレードは国内独自の基準で統一されており、トラジャコーヒーの等級もマンデリンコーヒーやコピ・ルアクなどと同じ条件で評価価値が付きます。
方法は300gの中に含まれる欠点豆が数えられ、数が少ないほどグレードが高くなる仕組み。
等級は上位からG1・G2・G3・G4・G5に区別されます。
最も高い等級のG1が欠点豆数0~3、以降欠点豆数は徐々に増えていき、G5で46~100です。
このように5つの格付けの中でもG1の欠点豆数は非常に少なく、丹念な栽培と生産工程を経なければ成しえないことが分かります。
[関連]コーヒー豆の等級(グレード)を生産国別に詳しく解説!
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トラジャコーヒーの歴史
17世紀頃にコーヒー栽培が開始される
オランダ人によってインドネシアにコーヒーノキが持ち込まれたのは17世紀頃。
当時1602年から約340年も続いたオランダ植民地時代の真っ只中でした。
コーヒー栽培はオランダ東インド会社によって管理され、特定産品の義務化が進み、コーヒー豆もそれに含まれています。
18 世紀に入るとコーヒー豆の輸出量が増大し、ヨーロッパへ向けた輸出品目のうちコーヒー豆はその中核となっていました。
インドネシアで本格的にコーヒー栽培が始まってからわずか20年ほどでコーヒー産業は大きく発展したのです。
そしてスマトラ島、スラウェシ島へと広がり、1750 年頃になってようやくスラウェシ島でのコーヒー栽培が始まりました。
[関連]【専門家監修】コーヒーの木の育て方と三大原種のアラビカ種、カネフォラ種、リベリカ種
すぐにオランダ貴族の間で人気になる
当時スラウェシ島は「セレベス」という名前でした。
インドネシア産アラビカ種コーヒーの輸出先はほとんどがヨーロッパ各地です。
高品質で希少性の高いトラジャコーヒーは、「セレベスの名品」と呼ばれ、オランダ王室御用達のコーヒーとしてヨーロッパ王侯貴族の間で瞬く間に人気に。
しかし1876年に発生したさび病が国中に拡大し、各地で大打撃を被ることになります。
各産地では病害虫に強いロブスタ種の栽培へシフトしていきました。
ジャワ島ではロブスタ種の生産が主流となり、今では「ジャワコーヒー=高品質のロブスタ種」という代名詞になっています。
そんな中でも、スラウェシ島ではトラジャコーヒーの栽培を続けていました。
[関連]【専門家監修】コーヒー豆のロブスタ種(カネフォラ種)とは?特徴や飲み方について
20世紀には第二次世界大戦により農地が荒れ果てる
19世紀から20世紀の間にコーヒー生産の転換期を迎えます。
農園の運営形態の変化や世界におけるコーヒー豆の価格低下に加え、輸出先がヨーロッパからアジアへ移行するなどさまざまな要因が重なり、コーヒー豆の輸出の割合がどんどん低くなります。
第二次世界大戦中は国土全体が戦禍を被り、働き手や材料不足で生産力が低下するだけでなく、農地自体が破壊されるなど、栽培を継続する状況ではありませんでした。
さらにインドネシアの独立後は、穀物や肉、野菜などの食糧生産にシフトする農家が増え、コーヒー栽培率は低下。
すでにオランダの管理下ではなくなったインドネシアでは、トラジャコーヒーも市場から姿を消すことになりました。
1978年にキーコーヒーがトラジャの復活を支援
トラジャコーヒーが市場に舞い戻ってくるのは1978年になってからです。
日本のキーコーヒー株式会社が、タナ・トラジャ地方で トアルコ・ジャヤ社を設立し自社農園を開きました。
まさにトラジャコーヒーの再生プロジェクトです。
キーコーヒーはコーヒー栽培のみならず、地元農園への支援や地元経済を発展させることを目指し、プロジェクトを始動させます。
自社農園でのコーヒー栽培と同時に、トアルコ・ジャヤ社への販売認可を受けた地元生産者から豆を買い取り、地元住民の生活の安定化を図りました。
こうして「トアルコ トラジャコーヒー」というブランド名で発売され、かつて幻のコーヒーと呼ばれたトラジャコーヒーがよみがえったのです。
トラジャコーヒーの美味しい淹れ方と飲み方
それぞれに個性的な特徴を持つインドネシア産コーヒー。
中でもトラジャコーヒーは力強いコクとスモーキーで芳醇な香りが際立ちます。
トラジャコーヒーの代名詞とも言えるこの風味を味わうためには特性の引き出し方が決め手となります。
コーヒー豆を購入した後にできることと言えば、焙煎・挽き方・淹れ方の3つのポイントですよね。
これらのポイントに絞って、美味しいトラジャコーヒーの飲み方をご紹介しますので、ぜひ参考にしてください!
中煎りから深煎りでコクと香りを引き出す
トラジャコーヒーの力強いコクと、スモーキーフレーバーを最大限に引き出すには中深煎りがおすすめです。
コーヒー豆の焙煎度合いは浅煎り~深煎りまであり、焙煎時間が長くなるほど苦味が強く、深いコクのある味わいになります。
この焙煎度合いは香ばしい風味の中に、コクとスモーキーな香りの存在感を持たせます。
挽き方は飲み方に合わせる
自分の飲みたいコーヒーの飲み方や、抽出器具に合わせて挽き方を変えていくようにしましょう。
コーヒー豆は細かく挽くほど成分がより抽出されやすく、逆に粗く挽くほど味が出にくく香りの少ないコーヒーに仕上がりやすくなります。
一般的なペーパードリップやコーヒーメーカーで淹れるなら中細挽き、ネルドリップやフレンチプレスなら中挽きが適していますよ。
[関連]【専門家監修】ハンドミルの使い方とコーヒーの淹れ方やお手入れ方法!
ミルクやクリームとの相性も良い
トラジャコーヒーはクリーミーな口当たりがあるため、ミルクやクリームとの相性も良いです。
ミルクを混ぜてカフェラテやカフェオレ、クリームをふんわりと泡立てたホイップを添えてウィンナーコーヒーとして楽しむこともできます。
しっかりとしたコクと香りなので、風味が損なわれることなく、美味しくいただけます。
ブレンドやアレンジせずストレートのブラックで飲む
ボディ感たっぷりのトラジャコーヒーはその力強さから、他のコーヒー豆とブレンドしても美味しさは変わりません。
また地元インドネシアでは、極細挽きにしたコーヒー粉とたっぷりの砂糖をコーヒーカップに入れてお湯を注ぎ、上澄みだけを飲む方法がスタンダードです。
ブレンドやインドネシア式の飲み方もバラエティーがあって楽しいですが、トラジャコーヒー本来の風味をそのまま堪能するなら、深煎りのストレートで飲む方法がおすすめです。
フレンチプレスならコーヒー豆の素材そのものが抽出されますので、本来の風味が伝わりやすくコーヒーの油分も溶け出してコクがさらに引き立ちます。
美味しく飲み切るために正しく保存する
トラジャコーヒーを美味しく飲み切るためには保存方法が大切です。
コーヒーをもっともおいしく飲める期間は、焙煎日から2週間以内だといわれています。
2週間以内に飲み切れる場合は密閉容器に袋ごと入れ、高温多湿や直射日光を避けた冷暗所で保存しましょう。
また2週間以上なら1度に使用する分を小分けにし、冷凍庫で保存するのがベスト。
冷凍保存したコーヒーを使用する際は、蒸らし時間を長めに取りコーヒー豆を湯温と近づければ、あとは通常通り抽出ができます。
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この記事を書いた人
フリーライター
かつてウィーンで本場のカフェ文化に触れ、その後北部タイで薫り高いコーヒーを味わって以来、コーヒーに心魅かれる。その想いが募り、美味しいコーヒーを追求して2年間の東南アジア・東アジア放浪の旅へ。各国カフェタイムの過ごし方はさまざま。カフェ空間が人々にもたらす癒しや活力、その奥深さに魅力を感じながら、コーヒーへの探求心はなおも続く。