あたかも宝石になぞらえて名付けられたかのようなクリスタルマウンテンコーヒー。
この美しい名称のコーヒーは、ジャマイカのブルーマウンテンやコロンビアのエメラルドマウンテンと同じように、高級銘柄として取引されています。
しかし日本国内でお目にかかることが珍しいことも事実。その理由はなぜでしょうか?
そんな謎めいたクリスタルマウンテンコーヒーをひも解いてみましょう。
今回はクリスタルマウンテンコーヒーの特徴と風味のほか、歴史や栽培環境まで深掘りします。
そして美味しい飲み方についても解説しますので、ぜひ参考にしてください!
この記事を書いた人
フリーライター
かつてウィーンで本場のカフェ文化に触れ、その後北部タイで薫り高いコーヒーを味わって以来、コーヒーに心魅かれる。その想いが募り、美味しいコーヒーを追求して2年間の東南アジア・東アジア放浪の旅へ。
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もくじ
クリスタルマウンテンコーヒーとは
キューバのエスカンブライ山脈で採れるクリスタルマウンテン
クリスタルマウンテンコーヒーはカリブ海に浮かぶキューバ共和国で生産される銘柄です。
首都ハバナからおよそ300kmの距離は本島の中央部。
そこには東西に伸びるエスカンブライ山脈があり、この山脈地域がクリスタルマウンテンの栽培地になります。
コーヒー銘柄の名前にマウンテンと付いているものの、実際にはエスカンブライ山脈という山名とは一致していません。
謎めいた感がありそうですが、実はこの名称にはしっかりと由来があるのです。
エスカンブライ山脈はクリスタル(水晶)が採掘される鉱山。
このクリスタルの産地で栽培されることから、クリスタルマウンテンコーヒーと名付けられたと言われています。
形が整った大粒でエメラルドグリーン色の生豆
クリスタルマウンテンコーヒーの生豆は、あたかもカリブ海の楽園を彷彿させるかのようなエメラルドグリーン色。
豆のサイズが大きく、1粒1粒の形が均整のとれた綺麗な形状をしています。
他の生豆と比べて柔らかく肉薄で水分量が少なめですが、あでやかで見栄えのある見た目をしています。
キューバで生産されるコーヒー豆の約3%しか採れない
クリスタルマウンテンは、ブルーマウンテンやエメラルドマウンテンと比べて知名度が高くありません。
それは、流通量が非常に少ないことが関係しているのです。
キューバ本島は東部、中部、西部の3つの栽培地に大きく分けられます。
クリスタルマウンテン以外にも、シエラマエストラやツルキーノなどの銘柄が生産されています。
なかでもクリスタルマウンテンとシエラマエストラが高級銘柄。
特にクリスタルマウンテンはキューバ産コーヒー豆全生産量のうち、わずか3%ほどしかありません。
厳しい品質条件に合格したものだけがクリスタルマウンテンとして認められるため、希少価値の高い銘柄なのです。
クリスタルマウンテンコーヒーの特徴と味
ほのかな酸味とまろやかなコクや甘みがある
クリスタルマウンテンの魅力の1つが爽やかさ。白ワインのような穏やかな酸味が伴い、スタイリッシュ感が漂うクリアな飲み心地です。
このクリアさは豆本来の特性のほかにも、精製方法によりさらに引き立てられています。
クリスタルマウンテンではウォッシュド精製を採用することで、雑味が取れて爽やかさが際立っているのです。
飲み始めはサッパリとしながらもコクと甘みがあり濃厚な余韻も残すため、充実度が増しますよ。
また近隣のジャマイカと気候環境が類似していることから、ブルーマウンテンコーヒーのように、酸味・コク・甘み・苦味などのバランスが優れています。
カリブ海特有のナッツのような風味が楽しめるのも特徴的です。
クリアでクセがないためコーヒー初心者にもおすすめ
クリスタルマウンテンは、コーヒーをこれから楽しんでいきたいという方向けの銘柄とも言えます。
クリアな飲みごたえのあるクリスタルマウンテンは、バランスが良くクセがありません。
さらに口当たりもまろやかなので、クセのあるコーヒーと比べると幾分にもスッと入りやすいのが特徴的です。
それに加えて、香ばしさと濃厚なコクも感じられしっかりとした珈琲感があるので、コーヒー初心者の方にはとてもおすすめです。
クリスタルマウンテンコーヒーの味わい
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クリスタルマウンテンコーヒーの栽培環境
エスカンブライ山脈の昼夜寒暖差は10℃以上
コーヒー豆の栽培に適した標高はおよそ1,000m~2,500m。
キューバは比較的標高の低い地域が多く、山岳地帯と丘陵地が占める割合は全体のわずか25%しかありません。
その中で最も高いのがマエストラ山脈、その次がクリスタルマウンテンの栽培地であるエスカンブライ山脈です。
クリスタルマウンテンの栽培地域はおよそ1,000m。
モカやキリマンジャロの生産地ほど標高が高くないにもかかわらず、同様にクリアな風味を生み出しているのは、昼夜の寒暖差が10℃以上あるためです。
この寒暖差はコーヒーノキに多少のストレスをかける働きがあり、その結果として実が引き締まり、優れた酸味とすっきりとした風味を醸し出すのです。
日照量や降雨量が非常に多い地域
キューバの気候は亜熱帯性海洋気候で国全体の年間平均気温は約25℃、年間降水量は1,244mmです。
これに対して、クリスタルマウンテンの栽培地域では年間1,990m程度の雨量を記録しています。
雨季の期間にあたる6月と10月が最も多く、月に約180mm、乾季の12月〜4月は月に約50mm程度で雨季と乾季がはっきりとしています。
またクリスタルマウンテンは斜面や段々畑で栽培されており、この地形がコーヒーノキにたっぷりと太陽の光を注ぎます。
日中の日照量と雨量が多く、肥沃なこの土壌ではミネラルが豊富に含まれたコーヒー豆が育ちます。
その恵みを受けて、芳醇な味わいのあるクリスタルマウンテンが作られているのです。
[関連]【専門家監修】コーヒーの木の育て方と三大原種のアラビカ種、カネフォラ種、リベリカ種
カリブ海の中心に位置しているため自然災害がとても多い
クリスタルマウンテンの収穫時期は9月~1月頃。この時期になると、実が引き締まった真っ赤なコーヒーチェリーが顔を見せます。
しかし収穫時期の前半はキューバの雨季にあたる時期。この間キューバではハリケーンシーズンに見舞われます。
キューバを含むカリブ海は自然災害がとても多い地域で、特にキューバはその中心地にあるため、自然災害に直面する機会も増えます。
熱帯低気圧発生からハリケーンに拡大すると脅威が増し、コーヒー栽培に大きく影響してくるのは言うまでもありません。
最悪の場合、多大な被害を受けるケースもあります。
そのため、キューバはクリスタルマウンテンを含め全コーヒー生産量の安定供給が難しい地域でもあるのです。
[関連]【専門家監修】コーヒーチェリーとは?真っ赤なコーヒーの実の構造や精製過程
アラビカ種を中心にティピカ種、カトゥーラ種、ブルボン種を栽培
クリスタルマウンテンをはじめ、キューバで栽培されるコーヒーはアラビカ種がメインです。
その中でおもに栽培されている品種はティピカ種、ブルボン種、カトゥーラ種の3つになります。
ティピカ種は、アラビカ種の中で最も古い品種。透き通るような酸味や芳醇な香りとコクがあり、優れた風味を持ちます。
ティピカ種と同様にコーヒー豆のルーツと言われるブルボン種は、コクと甘みのバランスがよく、リッチな風味と香りが特徴的です。
ブラジル生まれのカトゥーラ種は、ブルボン種の突然変異によって派生した品種で、酸味が際立ち渋みを伴った風味を持ちます。
それぞれに特徴的な品種のため、いろんな角度からキューバコーヒーの風味を楽しめますよ。
[関連]【専門家監修】コーヒー豆にはどんな品種がある?3大原種と産地の違い
クリスタルマウンテンコーヒーの等級
等級 | スクリーンサイズ | 欠点豆 |
---|---|---|
クリスタルマウンテン | 18~19 | ~4粒 |
エクストラツルキーノラバド | 18~ | ~12粒 |
ツルキーノラバド | ~17 | ~19粒 |
アルトゥーラ | ~16 | ~22粒 |
キューバ産コーヒー豆は、スクリーンサイズ(豆の大きさ)と、欠点豆の数の割合で品質が分けられます。
スクリーンサイズの数値が大きく、欠点豆が少ないほど品質の高いものとして評価されます。
等級は4段階あり、最も高い等級がクリスタルマウンテンです。
これはスクリーンサイズが18~19(7mm~7.5mm)、欠点豆数は4粒までと定められています。
以降はスクリーンサイズ18以上のエクストラツルキーノラバド、16~17のツルキーノラバド、16以下のアルトゥーラが続きます。
等級表にも示されている通り、他と比べてクリスタルマウンテンの欠点豆数の少なさが際立っており、それだけ上質なコーヒー豆ということが分かりますね。
[関連]【専門家監修】コーヒーの欠点豆とは?種類や取り除くポイントについて解説
クリスタルマウンテンコーヒーの歴史
1740年代後半、ハバナ近郊にコーヒー苗が植えられる
キューバでのコーヒー栽培は18世紀までさかのぼります。
当時キューバはスペインの植民地。1492年にコロンブスにより発見されてから、1902年の独立まで400年もの間、スペインの植民地時代が続いたという背景があります。
そんな中1740年代後半に、スペイン人のドン・ホセ・ヘラルドがハイチからコーヒー苗を持ち帰ったことから、キューバにおけるコーヒー栽培の歴史が始まったと言われています。
彼はキューバの首都ハバナ近郊のボジェーロス市にコーヒー苗を植えます。
その後、開拓を目指したスペインからの入植者が増え、彼らによってコーヒー栽培は盛んになり、徐々にキューバ全土に広がりました。
東部の山岳地帯からフランス人によってヨーロッパへ広まる
コーヒー栽培が国内全土に広がるものの、実際には生産量が急激に増えるというものではありませんでした。
大きく動き出したのは1791年に始まったハイチ革命からです。
それまでハイチへの入植者であったフランス人が革命から逃れるために、大勢キューバへ渡ってきました。
彼らはそれまでハイチで農業を営んでおり、その農業技術がキューバで導入されました。
キューバ東部では数多くのコーヒー農園ができ、本格的にコーヒー栽培が進むきっかけとなったのです。
ハイチでのコーヒー生産の低迷と相反するかのように、キューバのコーヒー栽培は拡大し、輸出量は増大。
19世紀の中頃になると、ヨーロッパへのコーヒー輸出の上位国になりました。
[関連]【専門家監修】コーヒー生産量の国別ランキングを発表!日本の輸入量や世界の消費量は?
現在、日本やフランスが主な輸出先
当時のおもな栽培地は中央部と東部地域の山間部です。
現在における生産量の割合を見ても東部が7割、中部が2割、西部が1割ですので、栽培開始当初から変化はありません。
キューバ産コーヒーが高値で取引され、一時期1960年には最高生産量約6万トンを記録したものの、キューバ革命を境に労働者不足などの影響でコーヒー栽培は低迷していきます。
そんななか、栽培が難しいティピカ種から生産性の高いカトゥーラ種へシフトするなど、政府主導でコーヒー産業の再生を図りました。(※1)
その結果、生産量は以前に及ばないものの、依然としてキューバの代表的な農作物であり、高級銘柄として日本やフランスに輸出されています。
(※1)独立行政法人国際協力機構 ”キューバの名産品(コーヒーの話)
クリスタルマウンテンコーヒーの美味しい淹れ方と飲み方
クリスタルマウンテンの特徴は酸味とコクと甘み。
このバランスを楽しむためには、特徴を最大限に引き出すコーヒーの淹れ方を知ることがおすすめです。
そこで、クリスタルマウンテンの風味を活かしたコーヒーの淹れ方をご紹介しましょう。
中煎りでバランスよく抽出するのがおすすめ
クリスタルマウンテンのまろやかさを残しつつほのかな酸味を引き出すには、中煎り(ミディアムロースト・ハイロースト・シティロースト)がおすすめ。
さらに抽出方法の選び方によって3タイプの風味を楽しめます。
まずクリアな風味を際立たせるには、ペーバードリップでの抽出方法が最適。
抽出の際ペーパーフィルターにコーヒーの油分が吸着し雑味を取り除くため、さっぱりとした味わいになります。
コクと甘みも逃したくない場合にはネルドリップで抽出しましょう。
コーヒーの油分も一緒に抽出され、まろやかな口当たりが感じられます。
そしてクリスタルマウンテンのナチュラルな風味をそのまま味わいたい時はフレンチプレスがおすすめです。
[関連]【専門家監修】コーヒー豆の焙煎度合い(ロースト)は何段階ある?味と特徴を解説
豆を挽くタイミングは抽出直前に
コーヒー豆を挽くタイミングは抽出の直前がおすすめです。
事前に豆を挽いてしまうと空気に触れる面積が多くなるため、酸化スピードが早まり味や香りに影響を与えてしまいます。
そのため、淹れる直前に使用する分のコーヒーを挽くようにしましょう。
挽き方は抽出タイプに合わせて
コーヒー豆の挽き方は、抽出方法に合わせるのがおすすめです。
抽出方法に合った挽き方にしないと、成分を効率よく引き出せず薄味になったり、逆に成分が出すぎて渋みのあるコーヒーに仕上がってしまいます。
一般的な抽出方法でもあるペーパードリップで淹れたい場合は、グラニュー糖ほどの大きさの中細挽きを。
ネルドリップやフレンチプレスなどじっくりと抽出するタイプには、ザラメサイズの中挽き~粗挽きがおすすめです。
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キューバ式コーヒーなら濃い目に淹れて砂糖を混ぜる
せっかくなら本場の飲み方で楽しみたいという方は、キューバ式のコーヒーにチャレンジしてみましょう。
キューバではカフェシートや、カフェクバーノと呼ばれるショットサイズの甘いエスプレッソが日常的に飲まれています。
一般的なエスプレッソと同じように、キューバ式も液面にクレマという泡の層がありますが、わずかにクリーム状で苦味があります。
作り方は、まず深煎りのクリスタルマウンテンを極細挽きにし、エスプレッソマシンかモカポットで抽出します。
ミキシングカップに砂糖と抽出したコーヒーを数滴入れ、泡状になるまで混ぜます。
残りのコーヒーと泡立てた砂糖シロップをエスプレッソカップに入れて混ぜ合わせたら出来上がりです。
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フリーライター
かつてウィーンで本場のカフェ文化に触れ、その後北部タイで薫り高いコーヒーを味わって以来、コーヒーに心魅かれる。その想いが募り、美味しいコーヒーを追求して2年間の東南アジア・東アジア放浪の旅へ。各国カフェタイムの過ごし方はさまざま。カフェ空間が人々にもたらす癒しや活力、その奥深さに魅力を感じながら、コーヒーへの探求心はなおも続く。